東京高等裁判所 昭和46年(ラ)1025号・昭46年(ラ)1008号 決定
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〔決定理由〕一、本件抗告の要旨
1 第一審申立人は、原決定を取り消し、さらに相当の裁判を求める旨を申立て、その理由とするところは、「本件賃貸借については、昭和四三年四月一日に締結された更新契約で、第一審相手方は同申立人が借地上に建物を増改築することを承諾し、同申立人はその対価として更新料・増改築承認料一二万円を支払ずみである。かように本件借地契約には地上建物の増改築を制限する定めがなく、第一審申立人が増改築をなしうることは権利として確定しているので、昭和四五年九月一三日ごろ借地上の既存建物を取り毀し改築に着手したところ、第一審相手方がこれに異議をとなえ増改築をするには地主たる同相手方の事前の承諾を必要とし、かつ、右改築については慣習による応分の謝礼金を支払うことが必要であると争つている。そこで、第一審申立人としては、本件借地契約に増改築を承諾する約定がなされていることおよび謝礼金の支払いが改築の条件をなすものではないことの確定を求めるため、改めて借地法八条ノ二に定める改築承諾に代わる許可を申立てたのである。第一審申立人はその後、建築工事中の資材の朽廃、生活上のやむをえない必要などに迫られ、右工事を続行しこれを完成するにいたつた。」というのである。
2 第一審相手方は、原決定を取り消し、相手方の申立を却下あるいは棄却し、手続費用は第一、第二審とも第一審申立人の負担とするとの裁判を求める旨を申立て、その理由とするところは、「本件賃貸借につき昭和四三年四月一日に締結された更新契約によれば、賃借人たる相手方が借地上に建物の増改築をしようとするときは地主たる第一審相手方に申出るべきものとし、必ず事前にその申出をなすべきものとされているのに、右申立人は事前にその申出をしないで旧建物を取り毀し改築工事に着手したのである。しかも、第一審申立人はその後隠密裡に豊島区長の建築停止命令にも違反して、さきに着手した改築工事を再開続行し、昭和四七年七月中旬に建物を完成し、これに入居し現に居住している。そもそも増改築の許可申立は、増改築工事の着手前になされるべきであり、その着手後になされた申立は違法であり、ましてや手続の進行中に増改築が完成した場合には、その不適法なことは明らかである。その意味において原決定が増改築許可の申立ては着工後であつても適法であるとした判断は失当であり、かつ、同決定が主文中に豊島区長による建築停止命令が取り消されることという不確定な条件を付したのは違法である。さらに原決定が第一審申立人の改築計画は土地利用上相当であるとした判断は、理由不備で失当である。」というのである。
二、当裁判所の判断
1 第一審申立人と同相手方との間に原決定書添付別紙目録(一)、1に記載の土地について賃貸借契約が成立したことは、原決定の示すとおりであるから、これを引用する。
2 第一審申立人は、右賃貸借契約においては地上建物の増改築を制限する定めはないので、その借地上の建物を取り毀し改築に着手したところ、賃貸人である第一審相手方がこれに異議をとなえ右増改築を制限する定めがあるとし、さらに同改築に伴つて同相手方に慣習による応分の謝礼金を支払うべきであると争うので、改めて借地法八条ノ二に定める改築の許可を求めるため本申立におよんだというのであり、その申立にもとづく原決定に対する本件抗告手続の係属中に、第一審申立人が右着手にかかる改築工事を再開続行しこれを完成したことは同申立人および第一審相手方のともに主張するところであり、かつ、本件証拠資料によつても認められるところである。
3 当裁判所は右の事実および申立の関係においては、第一審申立人の右許可の申立は借地法八条ノ二に規定する許可申立の適格要件を欠くものと判断する。
借地法八条ノ二に規定する増改築の許可は増改築を制限する旨の借地条件が存在する場合に、借地権者の申立によつて、裁判所が諸般の事情を考慮し場合によつては他の条件を変更するなどして賃貸人の承諾に代えてなされるものであつて、結果的に契約当事者の合意に代わる賃貸借条件の新たな形成をするものである。したがつて、右裁判の作用は増改築を制限する定めの有無、すでに着手または完成した増改築の契約上の適否を判断し、これを確認することを目的とするものではない。本件についてこれをみるに、前記のとおり第一審申立人が改築を制限する契約上の定めはないと主張しながら、改築の許可を求めること自体むじゆんであるばかりでなく、すでに改築に着手し、それを完成しながらその改築の許可を求めるということは、名を許可にかりてその改築が契約上適法であることの確認を求めるものであつて、新たな賃貸借条件の形成を求めるものではない。そして右契約上の定めについて賃貸人に争いがあることおよびその改築に伴つて支払うべき「慣習上の応分の謝礼金」の額が現在明確でないことは右申立の性質に影響するものでもない。右契約の内容および謝礼金の額は客観的にはすでに定まつているはずであつて、これを発見し確定する途は、最終的には何らかの方法による争訟の手段によるほかはないからである。なお、本件の場合、第一審申立人は、賃貸人において増改築を制限する旨の定めのあることを主張しているのであるから、たとえみずからその制限の定めがないと信じていても、無用な紛争の予防をはかるため、その主張を廃して(せいぜい右の定めを単なる参考事情として)、増改築の着手前にその許可を求めるのであれば、もとよりその申立は前記法条に規定する許可申立の適格を備えるであろう。しかし、第一審申立人はその途を選ばずに、あえて増改築を制限する定めはないと現に主張し、かつ、すでに改築を実行し、これを完成しているのであるから、いま、その申立を右法条に規定する許可申立の適格を備えるものとすることはできない。
4 第一審申立人の本件申立は以上のとおりその適格を欠くので、これを却下することとし、これと異なり右申立を適法として他の条件変更のもとに改築を許可した原決定は相当でないからこれを取り消し、主文のとおり決定する。
(畔上英治 岡垣学 兼子徹夫)